投稿者:河内平野  投稿日:2014年11月20日(木)11時30分26秒    通報 編集済
その輸送に当たってもトラブルが続出した。
日本側の厳格な条件(十日以内に、温度零度を保って日本へとの条件)にも苦しんだ。
しかし、これも克服した。

当時のソ連官僚の厚いカベにぶつかり、直前になって飛行機が飛ばないという出来事もあったと描かれている。

すべてのカベを破ったのは、《待っている人がいるのだ!私は届けると約束したのだ!》という責任者の一念だった。
彼は、規約をタテに、飛行機を飛ばそうとしない役人を、どなりつける。
役人は「僕は国家の人間ですから」と、上の言うことを聞いているだけだと告げる。

医師は怒る。
「何だと、お前が、国家の《人間》!《人間》だって!お前は《鎖》だよ。君らは皆、ひとつの権力の鎖で結ばれているんだ」

規約や命令機構のために人間がいるのか、人間のために、それらがあるのか。
ただ頑ななだけの役人は、《人間》ではなく、人々をがんじがらめに縛る《権力の鎖》の輪の一つにすぎない。

だれかが、鎖を切らなければならない――と。
ともあれ、ただ「人道」のために、悪戦苦闘を乗り越え、「ワクチン」は届けられた。

《わが子を救いたい!》という母親たちの一念と、
《日本の子どもを救いたい!》というソ連の医師の一念が、
国家のコンクリートのカベを壊した。

私の友人で作家であるアイトマートフ氏は、
「母の力が権力の力に勝る社会をつくりたい」と語っておられるが、
この映画での医師たちのヒューマニズムに、そうした未来社会への曙光を私は感じる。

【広布三十周年記念フランス総会 平成三年六月十八日(全集七十七巻)】