投稿者:まなこ   投稿日:2015年 9月 2日(水)12時21分35秒     通報
■ 地獄界 —- 不自由な「瞋り」のうめき声

名誉会長: では、十界の一つ一つについて、経文と御書を拝しながら見ていくことにしよう。
大前提として理解しておきたいのは、法華経で「十界互具」が明かされたことによって初めて、十界を人間自身の「境涯」として語れるということです。「十界互具」については改めて論じたいが、この「互具」がなければ、十界の衆生は別々の世界に住む、互いにまったく無縁の存在でしかない。

斉藤: 「人界」の衆生 —- 我々のことですが —- の生命にも「十界」が具わっていると説かれたからこそ、十界を境涯論、生命論として理解できるわけです。そこから境涯の変革も可能となるのですね。

須田: 十界それぞれの名前ですが、法華経の法師功徳品(第十九章)に出てきます。「三千大千世界の、下阿鼻地獄に至り、上有頂に至る。其の中の内外の種種の所有る語言、音声、 —- 男声、女声、 —- 天声、龍声、夜叉声、 —- 阿修羅声、 —- 地獄声、畜生声、餓鬼声、 —- 声聞声、辟支仏声、菩薩声、仏声を聞かん」(法華経 p543)と。

名誉会長: そう。我々は仏界の「声」、菩薩界の「声」で人を救っていくのです。黙っていてはいけない。

遠藤: この経文等に基づいて、天台が地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天・声聞・縁覚・
菩薩・仏の十の境涯に整理したのが「十界論」です。
十界のうちの地獄界かも天界までの六つ、「六道」は、インドのハラモン教以来の世界観に基づいたものです。
バラモン教では、生命が生きる場所・世界として、大きくこの六つを考えました。それぞれの場所に、過去世の行い(宿業)によって生まれると考えていました。因果応報の考えです。業の報いによって、この六道を輪廻するとしたのです。
この六道輪廻から脱け出した境涯が、声聞から仏までの、いわゆる「四聖」です。

須田: それぞれの境涯を見ていきましょう。まず「地獄界」です。もともとの梵語はナラカで、「地下の牢獄」の意味です。

名誉会長: 今でも「奈落(ナラカ)」に堕ちると言うね。地獄の「地」は最低を意味し、「獄」とは拘束され縛られた不自由さを表す。苦しみに縛られた最低の境涯です。

遠藤: 日蓮大聖人は、「観心本尊抄」で「瞋るは地獄」(御書 p241)と仰せです。「瞋る」とは貪欲・瞋恚・愚痴の三毒(貪・瞋・癡)の中の「瞋恚」のことです。自分の思い通りにいかないことや、苦しみをもたらす相手に対して恨みの心を抱くのが「瞋」ではないかと思います。

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法師功徳品から
「是の清浄の耳を以って、三千大千世界の、下阿鼻地獄に至り、上有頂に至る。其の中の内外の種種の所有る語言、音声、 —- 男声、女声、 —- 天声、 —- 阿修羅声、 —- 地獄声、畜生声、餓鬼声、 —- 声聞声、辟支仏声、菩薩声、仏声を聞かん」 (法華経 p543)

この清浄な耳をもって、三千大千世界の、下は阿鼻地嶽に至り、上は有頂天に至るまで、その中の内外にわたる種々のあらゆる言葉の音声、 —- 男の声、女の声、 —- 天の声、 —- 阿修羅の声、 —- 地獄の声、畜生の声、餓鬼の声、 —- 声聞の声、辟支仏(縁覚)の声、菩薩の声、仏の声を聞くであろう。
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斉藤: しかも、その「瞋り」を相手にぶつけるほどの積極的なエネルギーは少ない。むしろ、行き詰まり、やり場のない「瞋り」の情念に、我と我が身を焼きながら、身もだえしている。そんな境涯ではないでしょうか。

名誉会長: 地獄界にも種々の段階があるが、「生きていること自体が苦しい」「何を見ても不幸を感じる」境涯と言えるでしょう。
「生」の力が極度に衰え、「死」へと近づいている。「瞋り」とは、その、どうにもならない生命の「うめき声」と表現でさるかもしれない。

遠藤: 自殺や非行に走る青少年の「生きていること自体が辛い」「この世に自分の居場所がない」という悲痛な声を聞くことがあります。
生命空間がゼロに近づいていったとき、自ら死を選ぶしかなくなった。 —- まさに地獄界です。胸をえぐられる思いがします。

名誉会長: だれでもいい、そばにいてあげることです。一緒にいて、話を聞いてあげる。一言でも励ましてあげる。それによって、苦しんでいる心に、パッと“生”の火がともる。
「自分のことを思ってくれる人がいる」 —- その手応えが、苦悩の人の生命空間を、すっと広げてくれるのです。他人や世界と“共にある”という実感があれば、必ず立ち上がることができる。
それが生命の持っている力です。だから、「善き縁」が大事なのです。仏法でいう「善知識」です。