投稿者:河内平野  投稿日:2014年11月15日(土)16時09分20秒    通報
一九八六年二月二五日、夫人は大統領就任を世界に宣言する。
コラソン・アキノ大統領の誕生である。
「ついに私たちは《家》に戻ってきました」
――「Lサイン」を高々と掲げ、大歓声で迎える百万の市民を前に、にこやかに語る夫人。
その脳裏には夫の破顔一笑の面影が鮮やかに浮かんでいたにちがいない。

このフィリピンの《二月革命》は、偉大なピープル・パワーによる変革であった。
とりわけ《女性パワー》の爆発は、世界の感動を集めた。

マルコス独裁に抵抗した不屈の闘士たちのなかには、多くの女性が含まれていた。
「ある調査では、六百四十五人の政治犯のうち女性は百六人もいて(八五年五月)、
その中には母親が四十一人、夫と共に投獄は十七人」であったという。

独裁による貧困のしわ寄せをもっとも深刻に受けるのは、女性である。
また虚偽に対して敏感なのも、女性の特徴といえよう。
アキノ大統領は、その全女性の代表である。

大統領は、語っている。
母親はわが子を差別したり、力ずくで支配したりはしない。
私は《フィリピンの母》となって、わが子ともいえる国民の心の中に、正義と真実と自由の尊さを伝えたい、と。

《民衆革命》の渦中、こんなエピソードがある。
――戦車が塀を破って突進し、群集と向かい合う。
にらみつける兵士たち。
静かに歩み寄る民衆。
その最前列には、女性たちが手に手に花を持って立っていた。

一人の若い女性が、兵士の前に進み出る。
深呼吸を一つ。
思いきって花を差し出す。
とまどう兵士。

一瞬、緊迫した空気が流れる。
兵士は、彼女を見つめ、「回れ右」をして後退した。

それを合図のように、民衆と兵士の間の殺気は消え、にわかに笑顔が広がり、やがて、それは大きな拍手の渦となった――。

「花」が「戦車」に、「非暴力」が「暴力」に、「魂の力」が「剣の力」に打ち勝った。
まさに《武力の時代》に取って代わるのは《文化の時代》《女性の時代》であることの象徴のごときシーンである。

ともあれ、二十年の長きにわたる独裁政治からの《開放》――。
そして、長い苦闘の《冬》を乗り越えた夫妻の《凱歌の春》――。
《夫婦一体の闘い(ラバン)》による、偉大な勝利劇は、不滅の叙事詩のごとく、燦然と民衆のゆく手を照らし続けるにちがいない。

以上、十分ではないが、アキノ大統領との会見を記念し、感謝をこめて紹介させていただいた。

【第四十一回本部幹部会 平成三年四月二十五日(全集七十七巻)】