投稿者:河内平野  投稿日:2014年11月15日(土)16時07分51秒    通報
帰国の希望に対し、権力からの脅しもあった。
《危険だ》と心配し、制止する声もあった。
それをすべて振りきって、覚悟の帰国であった。

氏は、フィリピンへの出発を前に、夫人にこう語っている。
「コリー、私たちはいい結婚をしたよ。ぼくはもしかしたらマルコスに殺されるかもしれない。
でも、そうなったとしても、ぼくの死はムダじゃない。
祖国を解放するために死んだんだと思って、そのときは許してほしい・・・」と。

何かの予感があったのであろうか。
これが夫人の聞いた《最後の言葉》となった。
一九八三年八月二十一日、氏は、祖国の土を踏んだ直後、邪悪な凶弾に倒れた――。

アキノ氏暗殺事件は、世界中を震撼させた。
まして、危惧していたとはいえ、最愛の夫を奪われた夫人の衝撃の深さは、他のだれにもわからないであろう。

悲報を聞き、彼女はとるものもとりあえず、五人の子どもたちと帰国する。

氏を襲った《問答無用》の暴力。
保身のためなら手段を選ばない。
平気で不正もするし陰謀もめぐらせる。
ただ邪魔者は消せ――これほど、陰湿残忍なものはない。

しかし、魂の真実は、どんな権力も消すことはできない。
《生死》を賭した戦いは《生死》を超える。

「自由」と「民主」を守るために犠牲となった亡き夫の耳もとで、彼女は、涙をぬぐいながら、静かに誓った。

《フィリピンが「民主」と「自由」を勝ち取るその日まで、あなたの遺志を継いで、戦い続ける》――と。

《不滅の誓い》で結ばれた夫妻の人生劇。なんと崇高な《夫婦一体》の魂のドラマか。

葬儀の夜、彼女は亡父が生前よく「勇気は、臆病と同様、感染するものである」と述懐していたことにふれながら、こう語った。

「もし、この時に、たった一人でも、また二人、三人でも、勇気を示すことができるならば、
他の人もそれに続くでしょう。そして、ニノイの真実が明らかになるにちがいありません」

一人の「勇気」が、次の一人の、やがて万人の「勇気」を生む。
万人の「勝利」を開く。彼女は、その《一人》だった。

悲しみの極限にあって、それを毅然として制覇し、夫の遺志を継いだ。

邪悪な権力と戦うため《一人立った》そこから、「民衆の海」に、「勇気の波」が一波また一波と広がり、
あの《民衆勝利》の逆転劇につながっていったのである。

私は、その偉大な《先駆の夫妻》を、心からたたえたい。

【第四十一回本部幹部会 平成三年四月二十五日(全集七十七巻)】