投稿者:河内平野  投稿日:2014年11月 8日(土)06時37分35秒

 
ユゴーといえば、その代表作は『レ・ミゼラブル』。
読まれた方も多いと思う。私にとっても、《青春の書》ともいうべき、忘れ得ぬ作品である。
戸田先生も、よく私たち青年に、この小説を引いて語ってくださった。

その第一部の表題「ファンチーヌ」は、悲しい母の名前。
主人公ジャン・バルジャンが後に養女にするコゼットは、彼女が私生児として産んだ娘である。
ファンチーヌは、不幸な生い立ちだった。
両親の名も知らない。

しかし、健康な娘だった。
とくに金髪の美しさは《黄金》のようであり、白い歯の美しさは《真珠》のようであった。
ところが、田舎からパリに出て働いていたころ、女たらしの学生に誘惑され、女の子(コゼット)を産む。
すぐに男には捨てられてしまった。
哀れにも、花開く前に青春は死んだ。

彼女は、娘を抱いてパリを出る。母にはこの娘しかなく、また娘にはこの母しかなかった。
やがて母は、無理がたたって胸を患う。
娘と一緒にいては、働き口もない。
母娘が飢えないためには、別れて暮らす以外にない――。

彼女は、つらい決意をする。
ある宿屋の親切そうな夫婦(テナルディエ夫妻)に、娘を預かってもらうことにしたのである。
月々の養育費は七フランと決めた。
半年分を前払いした。
「お金がたまったら、娘を引き取りにきます」。

ほんの少しの間だけのつもりだった。
しかし、彼女には、この宿屋夫婦の悪らつさ、黒い企みが、まったくわかっていなかった。
見抜けなかった。じつは夫はならず者であり、妻は野獣のように貪欲な人間であった。

この夫婦は、預かった幼児を、母親ファンチーヌから金を引き出す《金づる》としか見ていなかった。
パリで学生にだまされ、またも悪い夫婦に《たぶらかされた》のである。
宿屋夫婦は、ファンチーヌから預かった養育費を、一切、コゼットのためには使わなかった。

それどころか、コゼットの持っていた衣類まで金にかえた。
コゼットは、家族の残り物を、犬や猫たちと一緒に食べさせられた。
そして夫婦は、ファンチーヌから送られてくる金で、自分たちの二人の娘に贅沢をさせるのだった。

【第三十九回本部幹部会・第十六回全国婦人部幹部会・第一回関西代表幹部会 平成三年三月四日(全集七十六巻)】