投稿者:まなこ 投稿日:2017年 8月15日(火)09時06分19秒   通報
5 未来の世界警察軍

【池田】 すでにこれまで申し上げてきた通り、一切の軍備は撤廃すべきであるというのが、私の信念です。もちろん、警察力のような、国内の法と秩序を維持する最小限の装備は認めるにしても、それは将来、博士がおっしゃるような世界政府が誕生したとき、その管轄下に組み入れられるべきだと思います。つまり、それまでは各国が世界政府樹立のために最大限の努力を傾けるべきであって、その目標が達成された暁に、すべての軍備を連邦体のものとすべきでしょう。

【トインビー】 軍備をいかにすべきかの計画を立てる場合、われわれの目標は、その軍備の数量、致死性、使用を、すべて最小限に減少させることであるべきです。
ここで仮に、人類が世界政府の樹立に成功し、したがってそれを構成する各地方国家が二度と再び戦争を行なえなくなったと仮定してみましょう。また、さらにそれらの地方国家がいかなる種類の国家的軍備を保有することも禁じられ、しかも、この禁止が効果的に実施されたと仮定してみましょう。この場合でも、私は、世界国家にはやはり武装警察軍が必要だと思います。およそどんな地方国家でも、これまで警察力をまったく用いずにやってこれたためしのないことが知られています。これは、たとえいかに統治が行き届いて、市民のほとんどが法を遵守しているような国家でも同じです。取り締まらなければならない反社会的な少数分子というものは、いつの時代にも残存しているものです。われわれが世界国家の樹立に成功した場合でも、私は、統治の行き届いた現在の地方国家にあてはまることは、同じく統治の行き届いた世界国家にもあてはまるはずだと思うのです。

【池田】 私も、法と秩序を維持するための力は、いつの時代にもなくてはならないものだと考えます。もしそれがなくなってしまったら、善良な人間が苦しめられ、しかも自分を守ってくれるものがどこにもないことになってしまいます。いかなる社会も、悪人がまったくいなくなり、不正が完全に姿を消すということはありえないからであり、また残念なことに、不正と悪は、正義と善よりも強いのが世の中の実相だからです。

【トインビー】 そこで、警察軍が必要であることにわれわれが意見の一致をみたにしても、なおわれわれは二つの問題に直面することになります。世界国家の警察軍は、いかにして隊員募集をすべきか、また、その装備はいかにすべきか――という問題です。
私の考えでは、世界国家の警察軍は、現在の国連の非軍事部門のスタッフと同じように、世界政府自らが直接に隊員募集を行なうべきであり、各隊員はあくまで世界政府に忠誠をつくさなければなりません。世界警察軍は、地方国家から供給される派遣隊で構成されてはなりません。なぜなら、そうした派遣隊というものは、それぞれの地方国家政府に忠誠をつくしてしまい、世界政府への忠誠――至高であるべき忠誠――を二の次にしてしまうからです。ただ、各地方国家には、その地域の目的に沿った地方警察軍の維持を許す必要があるでしょう。しかし、地方警察軍の規模と装備は一定の範囲内にとどめ、どこまでも世界政府の権限に挑むような違憲的、反社会的目的に悪用されないようにしなければなりません。
世界政府としては、不正や紛争や暴力が昂じて世界平和を著しく乱したり、あるいは個人的、集団的人権に重大な侵害を及ぼしているような地域において、実行しうる最も公正な条件のもとに和平をもたらしうるだけの、十分な軍事力を指揮下におく必要があるでしょう。世界政府の警察軍は、たとえば、南部アフリカでの白人による黒人弾圧、中東でのイスラエル人によるアラブ人弾圧、北アイルランドでの新教徒による旧教徒弾圧といった状況に、ケリをつけるものでなければならないでしょう。世界警察軍はまた、現在の抑圧的な地方の既成特権階級を廃絶させなければならないでしょう。ただし、このさいの取り決めとしては、こうしたかつての暴君たちが、それまで彼らの犠牲者だった人々によって逆に犠牲にされることのないよう、保護を加えてやることです
このように、廃絶されるべき地方の既成特権階級への有効な保障が設けられたとしても、そうした保障は実施に移さねばなりません。また、たとえ地方の既成特権階級が、その廃絶後の有効な保護を、予め世界政府から保障されていたとしても、いざ実際に世界政府が廃絶への措置をとろうとすると、彼らは武力をもって抵抗を試みないともかぎりません。こうした可能性にかんがみて、私には、やはり世界政府は独自の警察軍を必要とし、その警察軍は武装を必要とし、その武装も十分な強力さを必要とするということは明らかだと思われます。すなわち、世界平和の樹立は秩序を施き、正義を貫くことによってのみ可能なわけですが、この警察軍は、そうした義務を遂行するにあたって直面するかもしれない、考えられる最大限の地方的抵抗に対しても、これを確実に打ち負かせるだけの、十分に強力な武装を必要とするはずです。
人間本性に内在する利己性や、ことに廃絶されるべき抑圧的な地方の既成特権階級に現在みられる暴虐的な性格を考え合わせると、彼らが自分たちを廃絶しようとする動きに抵抗して武器をとり、したがって流血の代価を払って後、初めて廃絶されるケースが、少なくともいくつかは起こるのではないか、と私は懸念するのです。