投稿者:ヨッシー 投稿日:2017年 1月13日(金)11時33分43秒   通報
其の二十五

残暑の某日、虎ノ門・大倉亭別館にて

栄助「いったいなんじゃ、あの出来の悪い新藩律は。のう、森田屋康兵衛(もりたや・やすべえ)」

康兵衛「しかり。城代も、勃樹のような小賢しい青二才を使うからいかんのです」

栄助「まったくじゃ。丸衆峠や丸参ケ原の戦でも役に立たんかったしのう。頼綱も、勃樹を取り立て過ぎると命取りになりかねんぞ。せっかく明電の絢ちゃんの曲がったヘソをとりなしたというのに、、、、」

康兵衛「しかもあろうことか、勃樹の命で新藩律作成に携わったという学問所の二人は、こたび城中律令方指南役に取り立てられるとのこと」

栄助「宮田新学堂と菅野有中呑兵衛の二人のことか」

康兵衛「さようでござる。先日、その一人を自宅まで探ってまいりましたが、日々のお勤めなどしている様子はなく、殿や先君まで小ばかにした口ぶりでござった」

栄助「目に浮かぶわい。日が暮れればすぐに盃に手が伸びる男に、お勤めなど出来ようはずはないわい」

康兵衛「もう一方の新学堂も、先君が終生依り所とされた日寛師を否定しようと教学論文などと称して発表したものの、これがもう誤認だらけで、一般藩民からまでその間違いを指摘されて大恥をかいたばかりでござる。自称“学者”が、実は寛師もまともに読んでいなかったという始末で、、、」

栄助「殿はともかく、我らが薫陶を受けた先君のお考えまでデタラメにされては、旧臣たちは納得できぬであろうにのう」

康兵衛「その通りでござる。それが今や“指南役”というのですから一体どうなることやら」

栄助「学者風情に何ができる。よいか、こたびのことは我ら旧臣の一切あずかり知らぬ事である。よって、万が一問題や騒ぎになった時は、全て皆行の守に押し付け、いざとなれば詰め腹を切らせるようしむけるのじゃ」

康兵衛「そうですな。それがようございます」

栄助「殿の余命もそう長くはなかろう。城代だとて病持ちの上、先の読めん男だ。何かあればまた拙者のところに泣きついて来るのがオチ。最後に笑うのは拙者よ」

康兵衛「嫌師の守さまは、尋常ならざる粘り腰でございますからなあ」

栄助「そうさな。先君は信長、当代は秀吉、ワシが家康じゃ。はっ、はっ、はっ」

康兵衛「織田がつき羽柴がこねし天下餅 、座りしままに食うわ徳川、ということですな」

二人「ワハハ、ワハハ」

(つづく)
※これまでの投稿はこちらを。
壱の巻、弐の巻、外伝等
http://6027.teacup.com/situation/bbs/62635
参の巻 (平成二十七乙未の年)
其の二十三 http://6027.teacup.com/situation/bbs/62636
其の二十四 http://6027.teacup.com/situation/bbs/62668