投稿者:河内平野  投稿日:2014年11月14日(金)09時04分47秒
さすがの主人も、今や完全に目が覚めた。
しかし、財産は渡してしまった。

「忘恩の卑劣漢」「真心を仇で返す悪党」は、「明日までに屋敷を出ていけ」と脅迫してくる。

そのうえ、尊敬する友人のために主人が預かっていた文書を、彼は持ちだし、国王に訴えてしまった。
「国事犯の共犯者だ」として、主人を逮捕させようと、警察を連れてタルチュフが向かってくる。

尽くしきったあげくの、この仕打ち――。忘恩、非道にもほどがある。
「人間って、見下げはてたけだものだなあ」。
主人は嘆きながら、亡命しようと馬車に乗るところを、ぺてん師に捕まってしまう。

ぺてん師は「いろいろ助けていただいたことは忘れたわけじゃありません」と言いわけしつつ、
《しかし、悪(友人をかばっていたこと)を見逃すわけにはいきません。
この神聖なる義務(「悪」を追放する)のためには、あなたへの感謝の念も、
自分自身までも、喜んで犠牲にするつもりです》と。

口は重宝というか、
「恩人であろうと、悪は悪だ」などと言われれば、だまされる人間も出てこよう。
ぺてん師に、自己正当化の《へ理屈》は、ことかかない。

主人の義兄は憤慨する。
「きみが人前でひけらかすその情熱が、口で言うほど立派なものだったら、
なぜもっと早く、そいつを見せてくれなかったのかね。
義兄(義弟にあたるが、年齢が若いので、こう呼んでいる)の細君に言い寄って、
その現場を押さえられるまで、待っていることはなかったじゃないか?」

――今になって人を罪人扱いするなら、どうして、これまで黙ってものをもらっていたんだ? 支援してもらっていたのか?

――しこたま財産を手に入れてから、急に悪をこらしめるなんて思いついたのは、
どういうわけだ? 陰ではともかく、表面では、ほめ続けていた人に対して?

「どちらが正義か」は、別に複雑な論争をしてみせるまでもない。

【海外派遣メンバー、各部代表者協議会 平成三年四月十二日(全集七十六巻)】