投稿者:河内平野  投稿日:2014年11月14日(金)09時02分44秒    通報
主人も、自分の耳ですべてを聞いて、ようやく迷いが覚めた。

「地獄にだって、あれほどの悪者がいるもんか」

テーブルの下から出てきた主人に、タルチュフは驚き、あわてる。
観客は大喜びである。

「出て行け!」と主人は叫ぶ。ところが――。

ぺてん師は開きなおった。

「出て行くのはそちらだよ」
「この家はおれのもんだ、忘れちゃ困るぜ」

そのとおり、主人は全財産を差し出してしまっていた。
悔やんでも遅かった。

そればかりではない。
主人は、政府ににらまれて亡命した友人の文書まで彼に握られていた。
これを利用されたら、友人の生命も財産も危ない。

「やれやれ! うわべはあれほど殊勝な、信心ぶかそうな様子をしていながら、
そのしたにあんな二心、あんな邪悪な魂を隠していようとは!
このわたしが、一文なしの乞食同然の境涯から拾いあげてやったのに」

《宗教なんて、もうまっぴらだ!》と、彼は叫ぶ。

怒り狂う主人を、妻の兄がたしなめる。
「(あなたは)いつだって極端から極端に走るんです」

「偽の信仰にだまされていたことに気がつかれた。
だからといって、それを改めるために、さらに大きな過ちを犯すことはないじゃありませんか」

「インチキな宗教に引っかからないよう、できるものなら用心してください。
しかし、正しい信仰を罵倒してはいけません」

【海外派遣メンバー、各部代表者協議会 平成三年四月十二日(全集七十六巻)】