投稿者:河内平野  投稿日:2014年11月14日(金)09時02分1秒    通報
これに父親は、また、だまされた。
かえって、息子や妻がうそを言っていると信じこんだ。

《こんな立派な方に悪態をつくとは! 息子よ、お前こそ悪党だ。勘当だ!》
そして、あろうことか、この「いかさま師」に全財産を贈与してしまうのである。
娘との結婚も急ぎだした。

狂信は、酒に酔った者のごとく、手がつけられない。
もちろん、だます人間のほうが、だまされる人間よりも悪いことは当然だが――。

妻は決心する。
《こうなったら、自分の目で見させるしかない》――。

彼女はタルチュフを部屋に呼びこみ、彼の思いを受け入れようと話す。
じつはテーブルの下には、夫を隠している。

初めは用心していたぺてん師も、だれもいないと思いこんで、だんだん大胆になり、彼女に言い寄る。
腹黒い正体を、あまさずさらしてしまう。
テーブルの下にいるとも知らず、主人の悪口も始める。

「ご主人なんかにそう気をつかうことはありませんよ」
「あれはどうにでも引き廻せる人ですからね」
「それにわたしは、なにを見ても信じないように、あの人を仕込んでおきましたから」

自分の「信者」であり、「恩人」である主人も、ぺてん師には「いいカモ」にしかすぎなかった。

無知な《お人よし》だけの人間であっては、絶対にならない。

【海外派遣メンバー、各部代表者協議会 平成三年四月十二日(全集七十六巻)】