2017年7月18日 投稿者:まなこ 投稿日:2017年 7月18日(火)09時45分42秒 通報 【トインビー】 国連機構の現状は、各主権国家がそれぞれ一票をもっているため、むしろ非現実的になっています。エチオピアやリベリアのもつ投票権が、アメリカやソ連や中国の投票権と同じなわけですが、しかし実際には、大国と小国の力の差はきわめて大きいのです。 おそらく将来は、中小国同士が結束を固めようとするでしょう。現にアフリカ・グループやアラブ・グループができています。こうしたグループが互いに助け合い、補い合いながら、国際社会で独自の立場を築いていけることに、私は期待しています。しかし、真に重要なことは、汚染など諸問題の解決のために、大国たると小国たるとを問わず、すべての国々が何らかの形の真実の世界政府へと結束していくことです。しかし、そのような世界政府の形態は、中小国に対して真の平等を保障するものでなければなりません。あらゆる国に、この世界政府の諸政策に対する発言権を与える必要があります。 現実には、多くの小国が、その環境に関わる生命線ともいうべき問題で、より強大な国々に踏みにじられようとしています。たとえば、アイスランドにとっては、漁業が死活問題です。したがって、アイスランドには、海水の清浄保全に関するいかなる国際法令にも、公正な発言権が与えられてしかるべきです。 【池田】 そうした小国がたくさん集まっている典型的な地域が、現在のアフリカでしょう。かつてアフリカは“暗黒大陸”といわれてきました。そして事実、アフリカ大陸の大部分が西欧諸国の植民地支配のもとにおかれ、黒人は奴隷状態におかれて虐げられてきました。 今日、アフリカ大陸には多くの独立国が誕生し、黒人は世界の各地でめざましい活躍を開始しています。もちろん、まだ根強い偏見はありますが、しかし、かつてに比べれば随分変わってきていますし、アフリカ大陸に対する呼称も“未来の大陸”などといわれるようになっています。 こうしたアフリカの人々、またアフリカ大陸が、今後、人類の未来に果たす役割はきわめて大きいと思われます。博士はこの点どう考えておられますか。 【トインビー】 まず、問題のアフリカとは、サハラ砂漠以南のアフリカのことであり、イスラム世界の一部をなしている北部アフリカではないことを、確認しておきたいと思います。 アフリカの黒人の生命力、体力には驚くべきものがあります。今日の著名な運動選手の多くが、アフリカ生まれであれアメリカ生まれであれ、黒色人種であるのは、決して偶然ではありません。かつてヨーロッパ人たちは、何百万人というアフリカ人を南北アメリカヘ奴隷として輸出しました。他人種であったら、おそらくそのほとんどが、この苦しい体験によって滅んでしまったことでしょう。しかし今日、アメリカ合衆国においてもラテン・アメリカ諸国においても、アフリカ人種はなお生き続け、人口の重要な一部をなしています。私には、人類が存続するかぎり、黒人と中国人が常に生き続けることは確かだと思われます。そして、そのゆえにこそ、これらの人種が人類の未来に、きわだって重要な役割を演じないはずはないと予想するのです。 また、アフリカ大陸も今後に大きな未来性をもっています。私の友人のギリシア人で、人類の居住地と、人間とその環境の関係を研究している人物がいますが、彼の指摘によれば、都市の膨張と人口集中を制限する要素は、水の供給力であるとのことです。彼は、世界の淡水の二大供給源は、東アフリカの巨大湖地方と北アメリカの五大湖地方であるといい、さらに、二十一世紀には、これら二つの湖水地方が都市人口の大集結地となるであろうと予言しています。 アフリカが唯一の“未来の大陸”であるといえば、それは誇張にすぎるかもしれません。しかし、“未来の大陸”の一つになることは間違いないことです。われわれ人類の祖先は、東アフリカのどこかで、初めて人間として出現したと信じられています。したがって、東アフリカに生まれる未来の世代は、もう一度、人間生活における中心的役割を演じることになるかもしれません。いずれにせよ、アフリカ人種は、未来の人類の営みにおいて、精神的、知的、肉体的の各分野で重要な役割を担うことになるでしょう。 Tweet