投稿者:信濃町の人びと 投稿日:2017年 7月28日(金)21時36分27秒   通報
池田大作全集76巻
海外派遣メンバー協議会 (1991年2月14日)④

■少年時代の壮大な夢を実現したシュリーマン

さて、話は変わる。地中海の東、青きエーゲ海。四千年の昔、ここに華麗なる古代文明が栄えた。ギリシャ文明、トロイ文明(小アジア)、クレタ文明(クレタ島)、ミケーネ文明……現代ヨーロッパの源流たる″黄金の世界″である。

また″詩人の中の詩人″とうたわれる古代ギリシャのホメロス(紀元前八、九世紀頃の人)の二大叙事詩『イリアス』と『オデュッセイア』の舞台でもある。いつの日にか、これらについても新たな視点で語りたいが、トロイ戦争等を舞台に、古代ギリシャの英雄たちが生き生きと描かれている。

今、これらの文明やトロイ戦争の実在を疑う人はいない。万人の常識になっている。しかし、ほんの百年ほど前までは、そうではなかった。ホメロスの詩は全ヨーロッパで読まれ、いわゆるインテリから庶民まで、よく知られていた。しかし、人々はそれらをたんなる″お話″だと思っていた。

ホメロス自身も伝説上の人物と思われ、彼の物語が本当にあったことだとは、だれも考えなかった。あえていえば、法華経や御書をいくら知っているようでも、現実とかかわりのない、ただの物語として読んでいるようなものである。

これを、歴史的事実にもとづくものだと証明したのが、ドイツのハインリヒ・シュリーマン(一八二二年~九〇年)である。昨年十二月が、彼の没後百年にあたる。

シュリーマンは八歳の時、父から一冊の本をもらった。それは、さし絵入りの『子供のための世界史』。そこに「トロイ戦争」のことが、印象的なさし絵とともに出ていた。

一人の美女(ヘレネ)をめぐって争うトロイ軍とギリシャ軍。十年に及ぶ戦乱。アキレスやアガメムノンら英雄たちの苦悩と栄光。そして「トロイの木馬」によるギリシャ軍の勝利――。(=大きな木馬の中にギリシャ軍の兵士が隠れ、トロイ軍が木馬を城内に入れてから飛び出して、トロイ軍を打ち破った)

八歳の少年は、これらの物語を完全に信じた。そして「将来、必ずこのトロイを発掘しよう」と心に誓った。途方もない夢であった。しかし、じつに四十年後、彼はその″夢″を見事に実現したのである。

次元は異なるが、私どもは今、十年後の創立七十周年、さらには四十年後の創立百周年をめざして、「広宣流布」という″壮大な夢″の実現に邁進している。

百周年となると、現在の青年部、未来部にお願いする以外にない。さらに、広布は世代から世代へ、万代にわたって、″永遠に拡大″″永遠に深化″″永遠に蘇生″の大運動である。

ゆえに青年を大切にしたい。少年、少女の心を大切にしたい。八歳の少年の決意が、世界の歴史を書き換えたのである。子どもだからと、軽く考えることは絶対に誤りである。

このとき、初めは否定的だった父親が、シュリーマンの熱心さに打たれ、「お父さんも、お前の夢を信じるよ」と励ますにいたったという。父親のこの一言が、その後の彼の支えとなった。子どもへの信頼と共感が、どれほど大切であるかという例証であろう。

シュリーマンは、すぐに学者への道を歩んだのだろうか。そうしたかったが、不可能だった。母を九歳で亡くした。父は七人の子どもをかかえ、生活はすさんだ。父が公金を使いこんだという疑いをかけられ、一家は没落していった。そのためシュリーマンは、手痛い失恋もした。

彼は、高等学校にも行けず、十四歳で雑貨屋の店員にならねばならなかった。そして十九歳まで、毎朝五時に起き、夜十一時まで働かされた。「勉強がしたい」と、泣けてしかたなかった。しかし彼は、八歳の時の″夢″を片時も忘れなかった。
そのうち病気になってしまった。胸を悪くし、喀血したのである。

楽しかるべき青春の十九歳――しかし彼は、一文なしの、青白い、胸を病み、職も失った、みじめな姿の青年でしかなかった。

食べるためには、住む所や仕事を選んではいられなかった。南米に向かって出発したとき、船が難破して、九死に一生を得たこともある。やっと落ち着いたのは、オラングのアムステルダムであった。

ある事務所に勤めながら、乏しい給料を削り取って、勉強の費用に充てた。語学に熱中した。自分で編みだした独特の勉強法により、二年でなんと英語、フランス語、オランダ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語をマスターした。その猛勉強のエネルギーは、やはりあの″夢″であった。

彼は語学によって学問の基礎をつくるとともに、これを商売に生かして成功を収めていく。語学力のおかげで、外国の人々と直接に取引できた。これが商売の強みとなった。

「まず、お金をつくらなければ発掘などできない」――人々は彼をただの商人と見ていたが、彼の富は″目的をもった金″であった。最終的に、彼は古代ギリシャ語を含む十五カ国語を自由に話し、聞き、読み書きできるようになったという。

ロシアでも商売に成功、やがて巨万の富を築く。
運も良かったが、彼の徹底した努力と人柄の良さが信用となった。不屈の努力の根本は、「ホメロスの世界」への、強くまた強き″一念″であった。

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池田大作全集76巻
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