2017年1月5日 投稿者:まなこ 投稿日:2017年 1月 5日(木)09時05分39秒 通報 ◆ 3 現代都市の諸問題 ◆ (1)地価の高騰とビルの高層化 【池田】 現在、巨大都市の抱える諸問題は、世界的にますます複雑化するとともに、その深刻さを増しつつあります。とくに日本の大都市においては、道路、住宅、上下水道、ゴミ処理、緑地不足、交通戦争、物価高、環境汚染等々、およそ人間が人間らしい生活を営むのに必要な諸条件が、極度に軽視されています。 しかし、これは日本のみの問題ではなく、ある意味では、こうした都市の諸問題は、現代文明自体のもつ欠陥が凝縮して噴出したものだといえましょう。これら諸問題の解決は、当然、政治に課せられるものではありますが、都市化現象がこのように激しくなってきている以上、あらゆる分野の人々が協力して、早急に抜本的な対策を立てる必要があると思います。 【トインビー】 都市化現象は、現代の生活様式にみられる際立った傾向の一つです。しかも今日の都市生活の状況には、暴露的な働きがあります。つまり、あたかも凸面鏡のように、そこには現代生活のいろいろな汚点が誇張的にさらけ出されています。急速に発展しつつある世界の諸都市では、ただいま列挙されたような現代の病根が、極限状況にまで達しています。 すでに今日まで、急増している世界の人口の大部分が各都市へと流れ込んでおり、一方、縮小しつつある農村地帯に残った人々の生活も、しだいに都市化されています。都市自体が、高速道路という形でその触手を遠く農村にまで伸ばすにつれ、農耕や牧畜が機械化されているわけです。 【池田】 まことに深刻な事態というべきです。そうした現象にともなって、まず地価が高騰してきました。これは、都市に生活する人々にとって、とくに大きな悩みの一つです。 日本でも人口の都市集中が続いており、それにともなって土地の価格は年々上昇を続けています。そのため大部分の人々にとっては、自分の土地を持ち、自分の家を建てたいという願いも、かなわぬ夢となりつつあります。 東京などでは、すでに人口の増加がピークに達しており、ここ数年間は若干の減少さえ示しているものの それでも住宅事情はますます悪化するばかりです。とくに民間アパートの多くは、大戦後まもなく建てられた木造建築であり、そのため耐用限度にきていて、改築しなければならないところが増えています。改築されたアパートは・当然賃貸料が高くなりますから、これはアパート住まいの庶民にとっては、大変不利になるわけです。 【トインビー】 そうした問題が日本で切実なのは、私も知っております。しかし、この問題は世界的なものです。地価の高騰は、イギリス各紙の紙面を埋めている数えきれないほどの住宅関係記事を見てもわかるように、今日、イギリスでも緊急の課題となっています。しかし、世界中で最も住居間題が切実なのはおそらく香港でしょう。あの巨大な人口を、きわめて限られた地域に住まわせなければならないからです。 先年、香港に滞在したとき、私たち夫婦は、新しくできたアパート建築のいくつかを見せてほしいと申し出ました。香港では、この十年間に全人口の四分の一、つまり四百万人のうち百万人までが、高層アパート群に転居しており、その業績には目をみはるものがあります。ともあれ、私たちは、イギリス人の役人の案内でそのいくつかを見て回ったわけですが、非常に困難な条件のもとで、中国人たちがじつに秩序よく生活しているのには、まことに感心させられました。中国人は、家族内の結束が強く、子供たちもよくしつけられているため、あのような、ヨーロッパ人にはとても耐えられない環境の中でも生きていくことができるのでしょう。こうした方面に示される彼らの能力には、じつに驚かされます。 Tweet