2016年12月8日 投稿者:まなこ 投稿日:2016年12月 8日(木)20時04分10秒 通報 【池田】 したがって、人間の行動や思考や欲望の内奥にある無意識の領域にメスを入れないかぎり、人間精神の、したがって当然、生命の全体像は浮かび上がってきません。そこで、では潜在意識にはどのような働きがあり、人間の生活とどう関わり合っているのかということを考えてみたいと思います。 【トインビー】 潜在意識は直観の源泉であり、合理的思考もそこから生まれてくるわけですが、頭脳の活動が意識のレベルにとどまっているかぎり、知性は直観に達することができません。科学上の諸発見は、論理的な用語による表現や実験による検証が可能なものであり、事実、最終的にはその形をとってきました。しかし、そうした諸発見のいくつかは、元をただせば、意識下から意識上に湧き上がってきた直観――未検証で非論理的な直観――によってなされたものであることが認められています。 【池田】 おっしゃる通りです。科学における偉大な発見が、偉大な芸術家における創造のひらめきと同様、直観によるものであるのは不思議な事実です。 【トインビー】 潜在意識はまぎれもなく詩情や宗教的洞察の源泉ですが、それはまたあらゆる情動、衝動の根源をなしています。 これに対して、われわれが意識レベルにおいて下す倫理的判断は、情動や衝動の善悪を識別します。そのため無意識の領域内にわれわれの意識を及ぼす度合いが深まれば深まるほど、情動や衝動を意識的にコントロールする程度も大きくなります。意識的なコントロールは、こうした潜在意識の産物のうち、われわれが悪と判断するものを抑制し、善と判断するものを育成します。 したがって私は、できるだけ多くのこれらの情動、衝動をできるだけ意識の支配下におくために、人間精神の潜在意識の深層部を探究していくことが、人類の福祉にとって最も重要なことであると信じています。これは一つのやりがいのある精神的作業ですが、同時にきわめて困難でもある仕事です。 潜在意識は、あのギリシァ神話の海神プロテウスに似ています。それは常に支配から逃れようとしており、いったん支配下におかれるとそのことを怒ります。しかも巧妙な手段をもっており、意識が支配しようとするとそれに対して仕返しをし、いったん支配力が及んでもするりと逃れてしまいます。 Tweet