2016年11月29日 投稿者:まなこ 投稿日:2016年11月29日(火)08時34分11秒 通報 【池田】 つまり、生物の各種に属する個々の成員が、いずれも自らを宇宙の中心に据えようとする、ということですか。 【トインビー】 その通りです。一つの種における個々の成員は死んでいきます。これに対して、安定した遺伝子の組み合わせによってなされる繁殖というメカニズムは、一つの種を何代にもわたって確実に存続させようというものですが、しかし、ついには種そのものが絶滅するということもあります。たとえば、地球上に初めて生命が誕生してよりこのかた、おそらく今日までに現われた生物種の大部分はすでに絶滅しており、現存している種はおそらくほんの少数にすぎないはずです。 とはいっても、ある種に属する個々の成員自体の短い生存期間をとってみるなら、この一見とるに足らない宇宙の一部分、すなわち成員自体は、まぎれもなく全宇宙と同じだけの広がりをもっています。つまり、この一個の生物を中心として、そのまわりに全宇宙を体系づけようとする企てが、常になされているのです。そして、この一個の生物が生き続けようとする努力によって、宇宙全体がごくわずかですが実際に影響を受けています。こうしてみますと、ある生物の環境というものは、宇宙全体を包含しているだけでなく、その生物自体にとって不可欠の一部をなしてもいるわけです。 結局、生物とその環境とが人間の知性によって区分されるにしても、“実在それ自体”にはそうした知的区分はありえないだろうと私は考えます。ただし、これも“実在それ自体”が万一、人間の知力で理解できると仮定したうえでの話ですが――。 Tweet