投稿者:ヨッシー 投稿日:2016年12月30日(金)14時59分57秒   通報

隠密同心 心得の条
他人が命 なんとも思わず
査問の儀、あくまで陰にて
己の淫行伏し
ご下命いかにても果すべし
なお
死して屍拾う者なし!
死して屍拾う者なし!!

弓「オヌシも、今や“犬”の身かえ」

森「しゃあないわ、ワテも脛に傷持つ身や、勃樹は嫌らいやが、今は点数稼がなあかんしな」

弓「お互いせつないのう」

森「オヌシは要領ええやんか、あれだけの騒ぎを起こしとっても、拾おてもらえたんやし」

弓「まあな。だが、あの騒ぎには、いろいろ裏があったんだぜえ」

森「裏やって?」

弓「そうよ、拙者が失脚したことで得をした者がおる。オヌシは、誰が一番得をしたと思う?」

森「そら、誰がどうみても、化猫丹治(かねこ・たんじ)の一味やろな」

弓「その通り。拙者が勤めていた侍若衆は、若頭以下、要職はぜんぶ化猫配下の連中で占められた」

森「せやったな。“化猫組にあらずば若衆にあらず” ってなもんや。それもこれも、お側用人の中野擁丹が、殿に化猫を押しまくっとったさかいな」

弓「そう考えれば、拙者を追い落とした奴が誰かは一目瞭然だろ」

森「なんや? 助兵衛、オヌシの失脚は陰謀やったと? てっきり身から出た錆だと思っておった」

弓「ま、不徳の致すところは間違いござらん。だがな、前年の秋、身辺整理は済んでおったのだ」

森「どないうことや? たしか、オヌシは暮れに、祝言を挙げとったのう」

弓「そうだ、一人のおなごに絞るのは、手を付けるより大変だったが」

森「そらそやろ、聞くところによると、これまで契りを結んだおなごは、ミニマム8人、マキシマム20人やったとか、、、”来世は必ずソチと一緒になる” などと歯の浮くような空手形を乱発したいうことやないか。よく整理しよったのう」

弓「まあな、当時の大老・秋谷嫌師守殿をはじめ、おっさん達の力を借りて、なんとかお側用人方の女官だった今の女房を娶ったのさ」

森「せやけど、前年すべて片が付いてたのやったら、なしてあのようなことに?」

弓「それが、よくある、、、」

森「よくある、なんや?」

弓「女房がすぐに身ごもってしもうて、、、」

森「めでたいことやないか。それが、どないした?」

弓「女房の腹が大きくなると、、、。あっちの方もご無沙汰に、、、」

森「そらしゃあないわな、女房殿がご懐妊では。我慢もせにゃ、、、」

弓「でもってさ、皆が、天下分け目の江戸の法戦に戦っている最中、昔のおなごと焼け木杭に火が付いてしもうてな、、、」

森「なんやと? オヌシはあの法戦の最中、昔のおなごとチョメチョメしよったのか、、、」

弓「本当に、本当に面目ないm(_ _)m」

森「嫁が妊娠中の亭主の浮気ちゅうやつか。骨の髄までケダモノやなぁ~、オヌシは。ほんでどないなったんや」

弓「そこで出てくるのが、化猫じゃ。拙者とそのおなごとのことを嗅ぎつけた化猫の一計で、城中の奥方連中の間に、鎖盟流(チェーンメイル)が流れたんだ」

森「鎖盟流とな!!」

弓「そうだ。それが、回りまわって、まぐわったおなごの母君の耳に、、、。その母君というのが、殿の信任の最も厚いマル女の、、、」

森「なるほど! それでやな、殿が親の猛抗議で、夜中、丑三つ時まで寝せてもらえんかったと申されたんは、、、」

弓「そうだ。殿にそこまでできるのは、その母君しかおらんからな、、、」

森「そらよくわかる話やで、せやけど、前年、オヌシの身辺整理を後押ししてくれよった前大老・嫌師守殿らは、守って下さらなかったんかいな?」

弓「状況が変わったからな」

森「どないうことや?」

弓「失脚する三カ月ほど前、拙者は侍若衆の代表として殿に呼ばれた。その時、殿より矢野明電の守を徹底的に叩くことを命ぜられたのだ」

森「ほー、そないなことが、、、」

弓「オヌシも知っての通り、それまで明電の守に対する藩の対応は、極めて曖昧なものだった」

森「たしかに、、、そないな空気やったな」

弓「それは当時、明電の守と裏で繋がっていた秋谷大老が、手綱を引いていたからだ」

森「そらわかるでえ」

弓「だが、殿から直接命を受けた拙者は、やる気満々だった。これで思う存分、明電を叩けると、、、これを成し遂げれば間違いなく拙者の時代が来ると、、、」

森「その直後かいな、オヌシの女問題が発覚したんは」

弓「そうだ、それまでだって役臣たちの女問題はたくさんあったが、あそこまで事を大きくされ、殿にまで細かな報告が上がったのは初めてだった」

森「なるほど、オヌシの明電攻撃を止めさせたい大老に、格好の材料を与えてしまったいう訳やな」

弓「そういうことだ。いつもなら隠ぺいして無処分、もしくは、遠くへ飛ばしてハイ終わりだったくせに」

森「せやけど、あの人数に手え出してはなぁー、、」

弓「それをいうなよ」

森「まあな、たしかに不祥事が起きたかて、たいがい上層部も、己らの監督責任を問われるのを恐れて握りつぶし、遠くへ追い払ってお茶を濁すのが常套手段やったもんな」

弓「その通り、あわよくば隠ぺいしてやったことを恩に着せて、使い勝手のいい子分にさせることも、、、」

森「思いあたる奴がぎょうさんいてるなあー」(ちょっと、ワシもその一人やが、、、)

弓「ところが、あの時ばかりは違った。事の子細が殿の耳に入ったばかりか、世間の瓦版にまで載ってしまった」

森「そやねんな、殿がご出席の藩全体寄合の内容まで流れてもうて、殿の激怒の模様がありていに書かれてもうたわな。有名な『あっちも、こっちも』や」

弓「それで、俺は、ハッと気づいたんだ、、、」

(つづく)