投稿者:ヨッシー 投稿日:2016年12月 2日(金)11時35分2秒   通報
其の十四

評定所

役人「評定方長官、大馬鹿之輔(おおば・かのすけ)さま、おな~り~」

大馬「嫌疑の者“二十歳の隠居”、面を上げい」

隠居「とっくに上げてます」

大馬「むぅ~。通達した通り、昨年末より、その方を藩外追放すべしとの訴えが出ておるゆえ、本日最後の吟味をいたす」

隠居「お待ちくだされ。その『訴え』とは一部御重役より指示されたものでござろう。藩律によれば、『追放の訴え』は当事者の地元関係者より出される可しとの決まりでござるが、昨年末の最初の通達時にはその地元関係者は、この件を全く存知なかったという事実をつきとめてござる。そしてなにより、その『訴え』なるものに記された拙者への様々な嫌疑の内容については、地元衆が当時知る由もない内容でござる。これはこれ、まさに一部御重役が条条の自科を塞ぎ遮らんが為に不実の濫訴をいたすものでござる」

大馬「だまれ! 勝手にものを申すでない。その方は聞かれた事だけに答えればよい。その方、藩内において派閥をつくり、藩の批判しているとのこと、相違ないか?」

隠居「相違だらけです。我々の集まりは、元々大石藩打倒の情報交換及び、殿の思想を学ぶ場として二十年以前より行われているもの。派閥などというものではござらん。その証拠に、日常は皆それぞれに藩のお役目を全うしております。また、藩の批判などしたこともござらん。ただ、殿の思想に泥を塗る御重役の一部を告発しているのです」

大馬「では、八重の相対なるいかがわしい教えを流布している事についてはどうか」

隠居「八重の相対とは、御先君以来のご指導、即ち『悪は常に内側へ、内側へと入り込む』とのご教訓を、歴史観としてわかり易くまとめたものに過ぎません。当然、現君のお教えにも則るものでございます。もし違うというのであればその理由をお聞かせ願いたい」

大馬「質問は受け付けぬ! 聞かれたことにのみ答えればよいのじゃ!」

評定役A「なにやら“おふ会”とか称す集まりの中心者であるとの嫌疑があるが」

隠居「任意の集まりですから特に中心者などはおりません。しかも拙者にそのような嫌疑があると聞き及び、ここ数年来は参加もしておりません」

評定役B「“みにおふ会”なるものもあると聞く」

隠居「ほんの数人での食事会です。それが何か? 拙者が人に会うことが何か問題か? それとも拙者は一切人に会ってはならぬとでも申されるか」

大馬「うぬう~」

隠居「だいたいこれなる評定も不公平極まりないではないか。評定役五人中、三人までもが拙者を目の上のたん瘤視する大目付・八尋頼綱殿の息のかかった配下の方々であろう。評定を行う前から、結果は見えているようなもの、、、」

評定役C「それはたまたま、、、、」

隠居「であれば、公平公正なる立場の仁に変えるのが筋ではありませぬか」

評定役A「と、ともかく、貴様は組織内組織を、、」

隠居「貴殿らの言う『組織内組織』とは、分かりやすく言えば、『幹部の堕落や悪事を指摘する人々』『真実を語る人々』ということでござろう。我々は一般藩民の誰にも迷惑をかけたことはない。即ち貴殿らが声高に言う『組織内組織』とは、貴殿ら重役達が自分たちの堕落を隠し、立場を守るための都合のいい枕詞に過ぎないことは明らかでござる」

評定衆「・・・・」

隠居「『組織内組織』がけしからんと言うのであれば、真っ先に処分致すべきところが他にありましょう。言わずと知れた怪文書『天鼓』事件を仕掛け、次期藩主候補を追い落とした忍びの芳典一派及びそこと三位一体を為す者たち。皆行の守殿、大目付殿らこそ、分派活動の本家本元でありませぬか。殿も大衆の面前で、『皆行の守は、己が藩主になろうとして派閥を作っておる。とんでもない!!」と厳しく叱責なされていたではありませぬか」

評定衆「・・・・」

大馬「あー、これにて評定を終了いたす。追って沙汰いたすゆえ、これにて解散!」

(つづく)

※これまでの投稿はこちらを。
壱の巻(平成二十五癸巳ノ年)
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60751
弐の巻(平成二十六甲午ノ年)
其の十三 http://6027.teacup.com/situation/bbs/60907