投稿者:河内平野  投稿日:2014年10月27日(月)09時33分56秒    通報
フランスの有名な女性文学者ジョルジュ・サンドへ宛てた、ユゴー自筆の手紙がある。
一八五六年六月三十日付。今から百三十年以上も前の書簡である。

当時、ユゴーは、ナポレオン三世(ルイ・ナポレオン一世の甥)の独裁に抵抗し、亡命生活のさなかにあった。
その亡命先ガーンジー島から、サンドの郷里である、フランスの美しい田園ノアンの地へ送られた手紙である。

その中でユゴーは、こう語りかける。
「あなたは、高貴で誠実で、そして偉大な魂を持っておられる。
私は、ある日の朝食の折、子どもたちに、《彼女は、思想界で最も優れた女性であり、常にそれは変わらない》と話したことがあります」と。

またユゴーは、この《優れた女性》亡きあと、「ジョルジュ・サンドは一個の思想であった」とも回想している。

ユゴー(一八〇二年―八五年)とサンド(一八〇四年―七六年)の生きた時代は、ほぼ重なっている。
激しい権力闘争が繰り返された十九世紀フランス。
とくに、その半ばごろは、一度は革命によって共和制が実現されながら、人々が託した民主社会実現への希望が、無慚にも踏みにじられた時代でもあった。

一八四八年六月には、労働者運動を抑圧しようとした議会に対して、パリの民衆が抗議をする。
しかし、厳しい弾圧によって抑えられてしまった。
新聞も弾圧され、いくつかの政治組織が閉鎖させられた。

サンド自身、「理想の共和国」をめざす熱烈な行動者であった。
それだけに、本来、「民主」を実現するべき指導者たちが、逆に「抑圧体制」協力へと民衆を裏切っていく姿に、だれよりも深い幻滅を味わった。

悔しかった。
こうした暗い世相のなかで、あえてサンドは、心あたたまる美しい田園小説を書き残す。
その代表作が『愛の妖精』である。

皆さんのなかには、読まれた方も多いと思う。
若干、この物語をとおしてお話しさせていただきたい。

【各部代表研修会 平成三年一月十九日(全集七十六巻)】