投稿者:信濃町の人びと 投稿日:2017年 8月17日(木)16時27分2秒   通報
池田大作全集76巻
海外派遣メンバー協議会 (1991年2月14日)⑧

■松尾多勢子――女志士の現実に根ざした知恵

さて先日、文芸部員の古川智映子さんが、近著を届けてくださった。(=古川さんの前作『小説土佐堀川』については、昭和六十三年十二月の第十二回本部幹部会で言及。本全集第72巻収録)

題名は『赤き心を』(潮出版社)。幕末から明治維新にかけての激動期を″女志士″として生きぬき、戦った一人の女性――松尾多勢子の物語である。

多勢子は実在の人物。孝明天皇の暗殺を狙う幕府方の動きを探ったりしている。古川さんは、人知れず、しかし激しく生きたこの一人の女性を、共感をこめてつづっておられる。

主義主張は別として、日本史上まれにみる激動のなかに、みずから身を投じていった彼女の姿は、人間の生き方に一つの示唆を与えていると思う。そこで、著書の内容にそって、少々お話しさせていただく。

多勢子が、自己の信条にもとづく活動のため、信濃国(現在の長野県)から京都に出たのは、一八六二年。彼女が五十二歳の時であった。物語は、その旅立ちの場面から始まる。

十人の子どもを産み、子育ても、家業も、すべて成し終えた彼女は、静かに余生を送ることもできたはずである。まして、当時の京都は、維新前夜の動乱にあった。謀略、暗殺、裏切り――「死」と隣り合わせの世情であった。

″無為な毎日を生きるより、私は私の心の命じるままに生きたい。否、生きてみせる″――そんな強い決意が、彼女を支えていたにちがいない。
書名の『赤き心を』は、歌人でもあった多勢子の歌からとったものである。

「武士の赤き心を語りつつ 明くるや惜しき春の夜の夢」――。

幕末、多くの青年たちが、それぞれの燃えたぎる「赤き心」をもって立ち上がった。多勢子も、いつも青年とともにあった。あるときは″母″として、腹をすかせた志士たちに食事をさせ、あるときは年長者として、人生の相談にものってあげた。

在京中、坂本龍馬、久坂玄瑞(吉田松陰の高弟)、品川弥二郎(高杉晋作等とともに戦い、維新後は内務大臣となった)らとも知り合っている。

″女志士″多勢子の強さはどこにあったのか。それは、一言でいえば、女性ならではの「現実に根ざした知恵」であったと言えよう。
あるときは、一人の青年にこう語る。「論議だけを先走りさせるのは危険に思いますよ。激情に走り、実体を見抜く目を失うとまずいことになりましょう」と。

そのとおりである。現実を直視せず、憶測や思い込みに動かされるのは、愚かであり、不幸である。

当時、朝廷での討幕運動の中心人物であった岩倉具視は、勤皇方からは幕府に味方する裏切り者と見なされ、生命を狙われていた。そうした岩倉に対する皆の考えが変わったのも、物事の本質を見誤ってはならないと主張した多勢子のおかげであった。

また多勢子は、何があっても動じない。″口八丁、手八丁″で、やっかいな敵をも、うまく御してしまう。
あるとき、多勢子は捕らえられた仲間を探しに、一人で敵の拠点に忍びこむ。怪しまれると、とぼけて、「あまり疑うと(中略)知られたくない隠しごとでもあるのかと思いたくなります」と逆に切り返す。

そして「妙に図々しくて、それでいて虫も殺さぬような人なつこい笑顔」で、相手の心に飛び込み、相手がひるむと、たちまち自分のペースに引き込んでしまう。とうとう最後には、仲間の居場所も、敵の秘密も、つきとめてしまう。

ある人から「どうしてそう強くなれるのでしょうか」と問われ、多勢子はこう答える。
「(=私は)子供を育て、畑を耕し、家業に励み、多くの使用人たちをまとめてきました。夢中で、ただ家をとり仕切ってきただけなのです。地に足をつけて踏んばってきただけなのですよ」と。

「地に足をつけて踏んばってきた」――ここに、多勢子の飾らないたくましさがあった。

現実の大地に、人生の根を深く張った女性は強い。根を張ってこそ、年とともに、栄えの葉を茂らせ、満足の花、勝利の花を爛漫と咲き薫らせていけるのである。
■「現実」に生き「民衆」のなかに生きよ

仏法は現実主義である。多くの外道が観念論におちいるなか、釈尊は厳然と、現実に即して離れない中道の生き方を説いた。

「現実」という大地を離れて、仏法はない。「民衆」という大地を離れた宗教者は、根なし草となる。現実に背を向ける者は、現実から背を向けられる。民衆を見くだす者は、民衆から軽蔑されよう。

私どもは、日蓮大聖人の仰せのままに、いかなる苦労もいとわず、「現実」に生き、「民衆」のなかに生きぬいてきた。ゆえに御本仏のお心に感応し、広布の大展開があったと信ずる。

私どもは変わらない。この道を行く。法のため、人類のために。だれが変心し、堕落しようと、また私どもにまで、その民衆利用の計画に従わせるため策動しようと、学会は変わらない。従えば、仏法は死滅する。人類の希望の太陽は消える。断じてできることではない。

悪に従わねば、悪に迫害される。当然のことである。変心と堕落の人々からの攻撃は、信仰者の勲章である。

私どもは「地涌」の戦士である。大地から陸続と涌き出でた、御本仏の眷属である。三世にわたる門下である。

地涌――ここに大きな意義がある。決して、高いところから天下ったのではない。

地涌には「民衆」の鼓動がある。地涌には「平等」の響きがある。地涌には「自発」と「自由」の歓喜の調べがある。どうか、この「民衆連帯の道」を、また、広々とした「世界への道」を、ともどもに楽しく歩んでいただきたいと申し上げ、スピーチを結ばせていただく。
(東京。新宿区内)

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