投稿者:まなこ 投稿日:2017年 1月13日(金)08時38分25秒   通報
【池田】 非常に興味深い御指摘です。先進国が後進国になり、後進国がかえって先進国になる可能性もあるということですね。そこで思うのですが、いまアメリカや西欧の青年たちのなかに、日本の禅やインドのヨガなどを学ぶ人々が出てきています。彼らにしてみれば、一般的に後進性の象徴と考えられてきたことや、そうした国々が、じつは最も時代の先端を行くものを秘めているのだという意識があるのだと思います。
しかし、まだ現実の生活、先進国社会の一般市民の日常生活から遊離した、そのような特殊文化が対象であるかぎりは、文明全体の転換をもたらすものとはなりえません。生産活動や市民生活に直接かかわる問題について、アジアやアフリカに残っている古くからの人間の知恵が着目され、学び取ろうとされたとき、それこそ人類の歴史を大きく転換するものとなるのではないでしょうか。

【トインビー】 私の予測に説得力があるとするならば、中国は将来、過去を振り返ってみて、工業化が立ちおくれてかえってよかったと喜ぶことになるでしょう。この立ちおくれのために、中国はかつて一世紀にわたって弱体化し、屈辱的な待遇に甘んじてきたわけです。しかし、そのおかげで極端な都市化、工業化が避けられたのですから、これは安い代償だったということになるかもしれません。
これに対して、ロシア人と日本人は、西欧諸国民の工業化によってつきつけられた挑戦に対して、あまりにも迅速に、旺盛に、そして効果的に応戦してしまったことを、将来、悔いるようになることが考えられます。ロシア人も日本人も、西欧の例にそっくりならうことによって、この西欧からの挑戦に応じました。つまり、両国民とも、工業化の波にどっぷりと首までつかることによって、これに対応したのでした。短期的な視野からみた場合、それも先見の明があるもののように思われました。しかし、いま新たに開け始めたより長期的な展望に立つとき、やがてそれが近視眼的な、性急な反応の仕方だったと判明するはずです。