投稿者:信濃町の人びと 投稿日:2016年 2月 9日(火)11時21分56秒   通報

■文豪ゾラの冤罪事件と人権闘争

ゾラが晩年に遭遇したのが、ドレフュス事件という、有名な″冤罪事件″である。

何の罪もない人間が、軍部権力によってスパイ容疑をかけられ、遠島に流刑にされていた。事件の背景には、国民の″反ユダヤ感情″を悪用した策謀があった。

ゾラは、黙っていることができなかった。齢六十近くになっていたが、彼は正義のために、敢然と立ち上がった。高齢にもかかわらず、「正義のために叫ぼう」と。

叫べなくなってしまえば、人間、おしまいである。その人は、″心″が死んでいる。

ちょうど今から百年前の一八九八年、彼は「オーロール(夜明け)」という新聞に、大統領への公開状を発表する。

大きく印刷された見出しは
「われ、弾劾す!」
であった。大言論戦を展開したのである。

この闘争宣言は、権力の弾圧を呼び起こした。ゾラ個人への中傷の嵐が巻き起こったのである。

しかし、彼は動じなかった。くじけなかった。
偉い人は動じない。ヨーロッパのことわざに「深い川は静かに流れる」と。また「臆病な犬ほど、よく吠える」という。ふだんは静かに、どっしりとしている人物ほど、いざ立ち上がったら、とことん戦い続ける。口先ばかり達者な人間は、いざというときに弱いものだ。

迫害にも動ぜず、ゾラは叫び続けた。知識人に、庶民に、そして青年に訴え続けた。

やがてゾラに応え、二十代を中心とした青年が、学生が、そして人々が立ち上がったのである。
ゾラが訴え続けた努力は、事件の再審請求の署名として結実し、世論を高めていった。

そして、ゾラの死の四年後、ドレフュスの無罪が確定した。歴史的な勝利であった。ゾラの勝利であった。この闘争は、「人権の王者」の闘争として、今も語り継がれている。

池田大作全集89巻
第一回青年部「3.16」記念大会 (1998年3月13日)