投稿者:河内平野  投稿日:2014年11月14日(金)09時01分17秒    通報
そのあらすじは――。
ある財産家の家に、聖職者まがいの一人の「敬神家」「偽信心家」が入りこんだ。
一家の主人が、彼を狂信してしまったのである。
主人とその母以外の家族は、だれもこのべてん師を信じない。

二人は、彼タルチュフを聖人のようにあがめ、下にもおかぬ崇拝ぶりである。

他の人間には、彼の
「わざとらしい大げさな祈り」
「しかめっ面の君子気どり」
「口うるさく、何にでもケチをつける偏狭さ」が、我慢できない。

皆、「見えすいた偽善」だと知っている。
明らかに「財産ねらい」なのだ。

しかし、すっかりたぶらかされた主人はとうとう、
すでに婚約者までいる自分の娘を、このぺてん師に与えようと決める。
だれが反対しても耳を貸さない。

それどころか、ぺてん師に反対する者を「罰当たり」とののしり、「信心がない」と非難して怒りだす。

主人の妻は、かわいい娘がこんな偽善者と結婚するなんてとんでもないと、
タルチュフに思いとどまるよう直接話す。

ところが以前から、この美しい夫人によこしまな心をもっていたぺてん師は、
二人きりで話す機会を利用して、言葉たくみに誘惑する。
根は放埓そのものの悪人であった。

この様子を、家の息子(娘の兄)が物陰で聞いていた。
彼は飛び出していって、えせ宗教家を批判し、抗議する。

「このぺてん師は、ほんとに長いあいだ、お父さんを手玉に取ってきました」
「お父さんがこんなやつの食いものにされるのは、もうたくさん」

息子は、真実を明らかにする絶好のチャンスと思い、父親にぺてん師の「破廉恥な行為」をぶちまける。
白い仮面の下の腐敗――。これで父も、もう目が覚めるだろう、と。

ところが、さすがぺてん師というべきか、彼は口がうまかった。
《息子さんの言うとおり、私は何の価値もない人間なのです。
私は甘んじてこの侮辱を耐え忍びます》――「加害者」のくせに「被害者」のふりをしてみせたのである。

自分から悪をしかけておいて、都合が悪くなると、反対に被害者の顔をよそおう。
相手を加害者、犯人に仕立てあげる。
これがぺてん師の常套手段である。