投稿者:赤胴鈴之助 投稿日:2017年 7月27日(木)02時34分59秒   通報
21世紀への選択
人間を野獣に変える”戦争の愚かさ” P30

池田
母の声には、平和の響きがあります。

私が十一歳のとき、あの忌まわしい第二次世界大戦が始まりました。

博士はおいくつでしたか。

テヘラニアン
そのとき、私はまだ二歳でした。

イランは中立を宣言したにもかかわらず、連合国軍に侵略され、占領されました。

当時、連合国側のソ連の一部地域は、ナチス・ドイツ側によって包囲されていました。

イランはその地域へ、連合国が戦略物資をペルシャ湾から送り込むための”勝利への橋”と
して、利用されたのです。

一方で、私の故郷・マシュハドも爆撃を受け、ソ連軍に占領されてしまいました。

当時、市街地を歩くとき、ソ連軍の砲弾の破片が当たらないように、私は母のチャードル
(大きなヴェール)の陰によく隠れていたことを憶えています。

池田
人々の幸せな暮らしを、根こそぎ台無しにしてしまう。

それまで暮らしていた町が一日にして灰になり、親しかった人々の命を次々と奪っていく

・・・戦争のむごさというものは、体験していなければわかりません。

テヘラニアン
本当にそのとおりです。

こんな苦い思い出もありました。

私の兄たちが、市の公営プールで泳いでいたときのことです。

そこに突如、ソ連の兵隊が現れました。

兵隊たちは、兄たちを見つけると、「もうダメだ」と思うまで兄たちを水中に押さえつけ、

それからようやく引き上げては喜んでいる……。

そんなことを何度も繰り返していました。

どうやら彼らは、兄たちが苦しむ様子をおもしろがり、楽しんでいるらしい・・・そのとき

から、戦争に対する憎しみが、私の心に埋め込まれました。

戦争は人間を”野獣”に変えてしまうことを、私は思い知らされたのです。

ときには、ソ連の兵隊が子供にお菓子を与えることもありましたが、そんな優しさはき

わめて例外的なものだったのです。