投稿者:ヨッシー 投稿日:2017年 1月17日(火)11時57分36秒   通報

其の二十九

家臣A「ついに藩律の再改定が発表になったのう」

家臣B「ああ、驚いたことに、明年に任期切れが迫っていたご城代が、任期5年を4年に改定した上で3期目に。あと最低4年は藩政を担当することになった」

家臣C「対して、予想通り、八百の守がはずされて、坂田の守が次席家老に就きよったな」

家臣A「“若返り”でなくて“高齢化”だわな。それにしても露骨よのう」

家臣B「そればかりではない。こたびは、“主任老中”が新設された。城代や次席家老にもしものことがあったら職務の代行を行う重要な立場だ。その中に、あのゴマすりが抜擢されておる。元々、八百の守のお取り立てで偉くなったくせに、その八百の守を裏切って皆行の守に取り入ったとの話じゃ」

家臣C「金沢寝返太郎(かなざわ・ねがえるだろう)のことじゃな。金沢といえば、ある藩民から殿への喜捨献金を、浅見金作匠の守(あさみ・きんさくたくみのかみ)や、岡松殿様金窃(おかまつ・とのさまきんくすね)らと横領山分けしたと、例の『天鼓』で暴かれたあの金沢だろうが、、、」

家臣B「そうよ。浅見匠の守たあ、懐かしい名前じゃのう。唾を飛ばしてたら、自分が北に飛ばされ、今は墓守長をやっているとか、、、クスッ。」

家臣A「そうそう、金沢め、初めはその金作匠の守、次は八百の守、で今度は勃樹に寝返りやがった。しかし、主任老中が八人にもなると、いったい誰が次期城代の本命かわからんのう」

家臣C「そこだ! なるほど、、、読めたぞ」

家臣A「なにが?」

家臣C「いいか、普通は次席家老が次期城代の筆頭だが、今回その有力候補だった八百の守を外して、その席に次期城代にはなりえない年寄りの坂田の守を据えた」

家臣B「ふむふむ」

家臣C「そして、作ったのが“主任老中”だ」

家臣A「それで?」

家臣C「つまりだ、ご城代は、自分の下に次期城代候補を横並びにさせたのさ」

家臣A「だから?」

家臣C「まだわからんか。“主任老中”の顔ぶれを見てみろ。お世継ぎの博若様をはじめ、だれが次期城代になってもおかしくない顔ぶれだ。これまでは、八百の守か勃樹かなどと噂されてきたが、八百の守が失脚したことで、誰もが次期城代は皆行の守で決まりかと思っていたところに、一旦全て振り出し戻すため横並びにしたのが、この“主任老中”職の新設さ」

家臣A「なるほど。次期城代が明確になると、人心がどうしてもそちらへ移り、当代への求心力が落ちるからな。それで代替わり時期の先送りと横並び一線人事で、一度、家中の次期城代争いの火消しをして、ご自身の立場を安泰たらしめたわけだ」

家臣B「そうよ。ヘタをすると、黒船国の怒鳴花札(どなる・とらんぷ)と仮営舎小浜(ばらっく・おばま)の関係みたいになるからな、、、」

家臣A「納得だわ」

家臣C「しかし、城代の腹の中はそれだけではないようだ。今から話すことは、絶対に他言無用だぞ」

家臣A、B「 しかと、心得た」

家臣C「実は、藩律の再改定後、ある古参のお奉行が退任の挨拶に、ご城代と新次席家老・坂田の守殿のところへ別々に伺った折のこと。お奉行が何も聞かぬうちに、城代のほうから、こたびの人事の説明があったそうな。曰く、『八百の守もダメだが、皆行の守もダメだ。醜聞が多いし、人気がない。かといって北条婿の守らを城代や次席家老に抜擢すると、バランスが崩れる。皆行の守が黙っていないからな。だから、自分がしばらく城代職を務め、次席家老職も坂田の守にやってもらうしかなかったんだ』と。坂田の守も、全く同じ説明をなさったとか」

家臣A「ということは、ご城代の腹の中では、もはや勃樹への譲位は無理だと。意中の人物は別にありそうだな」

家臣B「北条婿の守とは、萩本瓢箪唐駒之輔(はぎもと・ひょうたんからこまのすけ)か。今や皆行の守を抜いて、次期城代候補の筆頭ともいうぞ」

家臣C「そうそう、城代の底意が漏れ広まっておるのであろう」

家臣A「となると、寝返太郎金沢あたりは、すでに瓢箪唐駒之輔にすり寄っておるかもな、、、」

――その頃、城中奥座敷では――

頼綱「このたびも、うまく運びましたな」

城代「これで、八割方仕上がった」

頼綱「しかし、城代職の任期を短縮したあの改定には、さすがの拙者も感心仕りました」

城代「なに、城代など長くやらぬ方が良いのじゃ」

頼綱「またまたお戯れを。短くすると見せかけて、ご自身の任期を延長させたあの裏技は、お見事でござる」

城代「あれ、わかっちゃった? 考えてもみよ、やれ、次期城代は八百の守だ、皆行の守だと騒いでいたのは、殿が、自分と親子の年の差の世代に譲ると仰せだったからにほかならない。殿が倒れた今、それにこだわる理由がのうなった。皆行の守や北条婿の守ら還暦前後の世代には、まだ譲らん。七十五歳前後の頼綱殿、坂田の守殿、そして拙者の三人で、まだまだこれから5年、10年は引っ張ってゆけるだろう」

頼綱「仰るとおり」

城代「その間に、間違いなく、殿は目をつぶる。そうなれば、時の城代は即ち殿となろうぞ。そうなれば、世はわれらが思うままということじゃ。藩律や任期なんぞ、ただの形式に過ぎんからな。それまで、わずかの辛抱じゃ、、、」

頼綱「御意」

二人「はっはっはっ」

(つづく)

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