投稿者:信濃町の人びと 投稿日:2017年 1月13日(金)23時52分27秒   通報
小説・人間革命12巻 後継の章より

ある時、報告にやって来た滝本欣也が、戸田に尋ねた。

「先生が一日の落慶法要で言われましたように、御書も発刊され、大講堂も建立された今、学会は身延をしのぎ、もはや、敵はなくなったと思います。これからの学会は、何を敵として進んで行けばよいのでしょうか」

戸田は横になっていたが、質問を聞くと、布団の上に起き上がった。そして、滝本の顔を見て、厳しい口調で答えた。

「敵は内部だよ!」

実はそのころ、学会員同士の共同事業の失敗や金銭貸借から怨嫉が起こり、それが組織での人間関係に亀裂をもたらすという、由々しき事態が、幾つも生じていた。

また、一部に学会の組織を利用して、保険の勧誘や商品の販売を行う者があり、いたく戸田を悩ませていた。ことに、それを行った者が幹部である場合には、会員は無下に断ることもできず、不本意ながらも、勧めに応じてしまうというケースも少なくなかった。

戸田は、広宣流布の組織である学会が、個人の利害によって撹乱されることを深く憂慮し、それらの行為を、「信心利用」「組織利用」であるとして、厳しく戒め、固く禁じていた。

学会の組織は、広宣流布という聖業の成就のための組織である。戸田が会長に就任してから七年に満たない短日月のうちに、学会がこれだけ大きな飛躍を遂げたのも、どこまでも清浄に、一切の不純を排して、厳格な運営が行われ、広宣流布の聖業に向かつて邁進してきたからにほかならない。

その組織が、私利や私欲によって利用されれば、学会の崇高な目的は汚され、異体を同心とする同志の団結も破壊され、広宣流布は、根底からむしばまれることになるだろう。

戸田は、まさに「佐渡御書」に仰せの、「外道・悪人は如来の正法を破りがたし仏弟子等・必ず仏法を破るべし師子身中の虫の師子を食」との御聖訓が、現実となりつつあることを、強く実感せざるを得なかった。

学会は、信仰によって結ぼれ、相互の信頼を基調とした善意の人の輪である。同志というだけで人を信じもし、安心もする。因っている人には、なんらかの手を差し伸べてあげようとする思いも強い。それだけに、悪意の人に、利用されかねない面があることも事実であった。いわば魔は、会員の信頼と善意に、巧妙に付け入ってきていたといってよい。

戸田は、それを防ぐために、信仰のうえで知り合った同志間の共同事業や金銭貸借、組織を利用しての商売を厳禁し、これを学会の鉄則としたのである。そして、この鉄則を破り、会員に迷惑をかけた幹部に対しては、解任も辞さぬ決意をしていた。彼は、邪悪の付け入る余地を、微塵も与えまいとしていたのである。

しかし、自己の利益のために学会の組織を利用しようとする者は、今後、学会が大きくなればなるほど、さらに、出てくるであろうことを、彼は予見していた。それゆえに、″今後の学会の敵は何か″という滝本欣也の質問に、即座に、「敵は内部だ」と答えたのである。

しかし、それは同時に、滝本自身に対する戸田の警鐘でもあった。滝本をよく知る戸田は、彼の生き方に対して、人知れず心を痛めてきたのである。