投稿者:ヨッシー 投稿日:2016年12月 4日(日)11時15分41秒   通報
其の十六

頼綱「御免」

重蔵「おや、これは大目付どのではござらぬか。お側用人部屋へ何用でございまするか?」

頼綱「いや、貴殿に話があって参った。内密な話ゆえ、しばし外へご同行願いたいが」

重蔵「左様か、では早速」

頼綱「ところで坂田の守どの、殿のご様子はいかがでござる」

重蔵「あまり芳しい事は聞いておりませぬ。最近は、第三ご嫡男の尊若様がぴったりとお側に付いておられますので、我らお側用人方も直接はお会いでき得ぬ状態で、、、、詳しい事は分かりかねますが」

頼綱「なるほど」

重蔵「して、拙者に話とは?」

頼綱「うむ。殿もご高齢の身、万が一の時は貴殿はいかがいたす所存かと」

重蔵「と申しますると?」

頼綱「殿にもしもの時は、当然、貴殿らお側用人は無用の者となろう。その後の貴殿の立場を案じましてな」

重蔵「・・・・」

頼綱「いやなに、それを機に隠居されるのも一つの道ではあるが」

重蔵「な、なにを申されるか、拙者は、まだこの通り達者でござる。隠居などと、、、」

頼綱「そうでござろう。そこでじゃ、ご城代は、貴殿を次期次席家老にと考えておられる」

重蔵「拙者が次席家老に!」

頼綱「左様」

重蔵「しかし、現次席家老の正木八百の守は、拙者より若く、ご壮健であるが?」

頼綱「いやでござるか?」

重蔵「め、めっそうもござらん! ありがたき事にござる。が、殿にご相談をしなくても?」

頼綱「ご相談可能な状況か?!」

重蔵「た、確かに、、、」

頼綱「ご城代は、貴殿の身を案じてござるのじゃ、貴殿も重臣なれば藩の行く末が心配でござろう」

重蔵「それはもう。して、八百の守は?」

頼綱「この際、時機を見て八百の守には辞職して頂く。ご城代の御方針に何やら不服をお持ちの様なのでな」

重蔵「なんと。もしや先日、若年寄兼総務奉行の梶岡新六郎どのが更迭されたのもその関連で?」

頼綱「左様。梶岡殿は、ご城代に背く律令方をかばい立てした上、八百の守とも通じて、ご城代の追い落としを画策しているとの噂がござったゆえ」

重蔵「そ、そこまでされますか、、、、」

頼綱「そこでご相談でござるが、貴殿も殿の事より藩の行く末を案じて、我らと心一つにして頂きたい。殿もご高齢じゃ、貴殿もかつて『五十四己未の年』の様に振舞っても得るものは無かろう」

重蔵「なるほど」

頼綱「得心致されたか?」

重蔵「万事承知仕った」

頼綱「それは良かった。では、今後は、呉々もその事を念頭に振舞わられよ」

重蔵「いえす、あいどぅー。あ~りがとさ~ん」

頼綱「・・・・・」

(つづく)

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