投稿者:寝たきりオジサン 投稿日:2017年 1月 9日(月)13時41分53秒 通報
2010年4月20日
池田大作創価学会名誉会長.
大宇宙では、新しい星が盛んに誕生を続ける星雲が観測される。
活力みなぎる銀河のごとく、日本にも、新しい人材が力強く誕生してきた
天地がある。
それが山口県である。
錦帯橋、秋吉台、ふぐなど、山口の名物は数多いが、何にもまして第一の
お国自慢は「人」であろう。
◇
私が対談した歴史学者トインビー博士も、世界的な視野から明治維新の
舞台・山口に注目されていた。
1929年、博士関門海峡から初めて見た日本の光景も、下関である。
終生、忘れえぬ美しさに魅了されたと感嘆しておられた。
博士と私の対談の焦点は、現代文明の試練に挑む人間の勇気と英知を、
どう持続的に薫発するかにあった。
時代は青年が創る。
ゆえに青年を育てることから一切が始まる。
明治維新の原動力も、萩の松下村塾での師弟の薫陶から生まれた。
今年は吉田松陰先生の生誕180年。
山口に光る教育力から改めて学ぶ好機としたい。
◇
私の恩師は、戦時中、軍部政府による投獄にも屈しなかった信念の教育者で
ある。
その恩師が「青年は良き指導者を得れば、いくらでも変わっていける」と語り
、模範と仰いだのが、吉田松陰であった。
「松陰と、その門下は美しいな。尊い師弟の物語を残したよ。」と、よく言わ
れていた。
その師弟を貫く魂は何か。松陰は「志をたててもって万事の源とす。」と語った。
世のため、民のためにとの師の志が、弟子の命に炎と燃え伝わったのだ。
獄中の松陰は愛弟子の高杉晋作に遺言した。「死して不朽の見込みあらば、
いつでも死ぬべし。生きて大業の見込みあらば生くべし。」
師弟は人を強くする。
心を定めた晋作たちは、若き力を存分に発揮し、天下を動かした。
師弟というと、古い印象を受ける方もいるかもしれない。
しかし、人格は人格の触発によって育まれる。
私と対談したアメリカ実践学協会のマリノフ会長も明快に指摘された。
「より高く精神を飛翔させ、より充実した人生を開くため、師匠の存在は
不可欠です」
師弟は若き心に希望を贈り、その創造性を開花させる源泉となる。
◇
私は青春時代から、山口県の方々と深く広く交友を結んできた。
その進取の気性と開拓の息吹が大好きである。
私の知る青年教育者は、防府市の小学校で校内の淀んだ池を児童と眺め
ながら、「蛍の舞う池に」と夢を語りあった。
皆で蛍について学び、人工ふ化へ調整を開始する。
努力に努力を積み重ね、ついに成功した。
600人の市民の方々と蛍の夕べをひらくまでになった。
自然を愛する心と心が織り成した、この師弟のドラマは、海外にまで反響を
広げている。
◇
「険しく困難な状況ほど、大事業をなすには好都合である」とは松陰の達観で
あった。晋作もまた、迫害の渦中、「我が胸中には太陽あり。我、百折不屈なり」
と叫んでいる。
理想のためには苦難を恐れず。この負けじ魂が、山口には燃える。
近代の宇部の発展を開いた実業家渡邊祐策翁も、郷土のために自己を捧げ、刻
苦苦闘の人生を歩み抜いた。その共存同栄・協同一致の精神は100年以上も
受け継がれ、「宇部方式」とよばれる地域一体の環境保全の知恵に結晶した。
世界的に注目されるモデルである。
◇
厳しい経済状況など、社会は閉塞感を深めている。
だからこそ、心の励ましを強めたい。
もう20年前、中国の人民大会堂で国家指導者の方々から歓迎を頂いた折のこと
である。私は、山口県の庶民の母のことを申し上げた。
それは、作家として高名な登友梅先生の回想である。
戦争末期、登先生は日本に強制連行され、14歳で、工場で働かされた。
過酷な労働や暴力の連続。その中で必死にかばってくれたのが、徳山(現・周
南市)の女性工員たちであった。自らも我が子を戦地へ送り出している婦人は、
涙ながらに語った。
「息子が外国でこんな辛い目にあっていると知ったら、あんたのお母さんはど
んなに切なかろうね」―登少年は、山口の母たちの真心に、故郷と同じく暖かな
「人間」がいることを知った。
それを支えに生き抜いたと感謝されている。胸に迫る友好の秘話だ。
どの命も、我が子のごとく、慈しみ育む―この母の心が満ちる山口こそ、青年
育成の平和の大地といってよい。
◇
教育立県・山口では、尊き伝統を踏まえ、「学ぶ力、創る力、生き抜く力」の
三つの力と、「広い心暖かい心燃える心」の三つの心の育成を目指されてい
る。それは維新の志士たちの志であると同時に、21世紀の世界市民の指標でも
あろう。
少人数教育の実践度の高さも全国の手本だ。大切な「NIE(教育に新聞を)」
運動も、山口新聞など、活発に推進されている。
◇
山口市、岩国市、柳井市、下松市など、いずこにも私は旧友がいる。
トインビー博士の忘れ得ぬ言葉がある、
「次の世代に起ころうとしていることに、本当に関心を持つことができれば、
生命の続く限り若さを保つことができます」下関に立つ、高杉晋作と坂本竜馬の
友情の記念碑は、その名も「青春交響の塔」だ。
山口は老いも若きも、皆人材、皆青春である。我らの愛する山口から、偉大な
青春の交響楽が、明るく賑やかに、未来へ輝きゆくことを、私は願ってやまない。